Wenzelburger, G. 2015. Parties, Institutions and Politicas of Law and Order

Wenzelburger, G. 2015. Parties, Institutions and Politicas of Law and Order: How Political Institutions and Partisan Ideologies Shape Law and Order Spending in Twenty Western Industrialised Countries. British Journal of Political Science 45(3) pp.663-687.


○主張の要約
与党の党派的イデオロギーが「法と秩序」(law and order)政策に影響を与える。具体的には、公共秩序や安全に対して、どれだけの予算を計上するかは、政府与党のイデオロギーに影響を受けるということ。ただし、政府与党の意向は、予算上の制約、制度的制約によって制限される。以上のことを、理論的かつ実証的に示す。

○導入
「法と秩序」をめぐる政治は、近年のヨーロッパでは、重要な政治論争のテーマになっている(国民戦線支持票を奪うために、法と秩序の番人であることをアピールしたサルコジタブロイド紙から批判された司法相を解任したキャメロン)。しかし、政治学の研究は「法と秩序」について十分に扱っていない。むしろ、この主題については犯罪学者の間で議論が盛んであった。有名なD・ガーランドの厳罰化(punitive turn)説は、工業化が進んだ西洋諸国で、ネオリベラルな資本主義が、経済だけではなく、ソーシャルコントロールの領域においても、根本的な変化をもたらした、と論じる。ガーランドに続いて、他の多くの犯罪学者が、ネオリベラリズム、グローバリゼーション、福祉国家の削減などの社会経済的変化が、より厳しい「法と秩序」政策をもたらしたと論じてきた。
しかし、政治科学の観点からすれば、この犯罪学の潮流には不満がある。1、「法と秩序」をめぐる政策は、構造的条件がそのまま反映されるわけではなく、政府・議員による立法によって実現されるにもかかわらず、政策形成過程に関する着眼が不十分であること。2、犯罪学研究は、「法と秩序」をめぐる国家間の違い、多様性を無視しがちであること。3、犯罪学の潮流では、個別の歴史叙述を質的に用いた研究か、拘禁率と犯罪不安を分析する量的研究が多いが、これらの変数は、政策形成よりも、因果的に遠いところにあること。
本論は、OECD諸国20ヵ国の1995〜2008年のデータを用いて、犯罪学による構造的説明よりも、政党のイデオロギーの違いや予算・制度的制約が「法と秩序」の政治を説明するのに適していることを示す。Fig.1は、国ごと、時期別の(その間に政権が変わる)「法と秩序」に関する公共支出学の変化をGDP比で示したもの。。

○最新の犯罪学研究と理論的根拠(p.666−)
先行研究(犯罪学)の要約。近年の比較犯罪学研究は、2つの潮流に分けられる。1、今日の西欧社会は、グローバリゼーション、ネオリベラル化、福祉国家の削減によって、治安面ではより厳しい政策、厳罰化(punitiveness)が進んでいる、とする立場(Garland 2001, Wacquant 2001, 2006)。主に、刑務所人口の増大を根拠に言われる。2、西欧諸国といっても、一概ではなく、それぞれの間に違いがあることを強調する立場。どのような要因が多様性を生み出しているかは、様々。(table.1参照)。ただし、どちらも因果関係の説明に、構造的なアプローチを採用している点で共通。格差、貧困、失業などが「法と秩序」政策に影響を与える、という見方。他方で、メディア、政党間競争、利益団体、新興右派政党の存在、福祉国家の寛大さ、さらにレイプハルトのデモクラシーの類型(コンセンサス型or多数決型)などの要因も無視できない。
したがって、現在の「法と秩序」または「厳罰化」をめぐる議論は、説明変数の過多と、全体的なフレームワークの喪失という問題に直面している。問題は説明変数だけではない。従属変数についても、統一されていない。犯罪学者たちは様々な要因を挙げて、「厳罰化」の現れだとしている(判決の厳罰化、三振法、拘禁率の上昇など)。統一されていない。
したがって、因果関係を整理しなければいけない。1、多様な説明変数は、それぞれどのように関係しているのか。2、全体的な厳罰化傾向と、国ごとに違いがあることの両方を射程に入れた、全体的説明の理論的フレームワークを作る。ここでは、多数の説明変数と被説明変数の関係を整理するために、因果順序(causal order)の考えを用いる。因果順序とは、個々の要因が、他の要因とどのような位置関係にあるのかを整理したもの(Fig.2)。そして、最終的な従属変数としては、「法と秩序」に関する公的支出(例えば警察の人件費増額)に統一する。
「法と秩序」政策を決する政府や裁判所は、政治制度の影響を受ける存在。例えば、アメリカの多くの州のように、判事が直接選挙で選ばれる場合、判決には世論の影響が強く反映される。また、イギリスのように小選挙区で、二大政党が政策を近づける場合、犯罪に厳しい態度が亢進する。また、強力な憲法裁判所がある場合は、政府が厳しい「法と秩序」政策を実行しようとするのを妨げる。しかし重要な点は、これらはいずれも法案の決定や判決、予算を直接決めてしまうものではないということ。

○Fig.2の読み方(p670)
左側に位置するほど、構造的で大きな傾向の要因(big trends)(貧困化した失業人口、グローバリゼーション、脱産業化、ネオリベラリズム)を示している。これらは、根底的な要因だが、政策に直接影響を与えるには距離が遠すぎる。big trendsは、まず、犯罪率の上昇や犯罪不安の上昇、犯罪に対する市民の厳しい態度などに影響を及ぼす。次に、こうした世論の変化は、政府の政策に影響を及ぼす。
これまでの犯罪学の研究はFig.2の左側の要因にばかり注目してきて、右側で直接的な影響を与えている要因(政府と予算)についての研究は不十分だった。政治制度を視野に入れる比較犯罪学研究の場合でも、選挙制度福祉国家の類型には注目するが、政府与党の構成については扱っていない。

○条件と仮説(p671−)
与党のイデオロギーが影響していると言えるための3条件。1、異なる国家間または異なる時期で、政府が「法と秩序」についての姿勢を変化させていること。2、与党が自らのイデオロギーを政策に反映させるインセンティブを持つこと。3、制度的・財政的条件が与党の政策実行を許すこと。
条件1:注意点は、経済問題に関する左右軸以外の軸(cf:キッチェルト)が存在すること。政党の位置は、Manifesto Research Groupのデータを使用(Klingemann et al. 2006)。変化は与党が変わることによっても起きるし、同じ政党が与党でも党内の姿勢が変わることによっても生じる(カナダ自由党政権1995—2005)。政権交代が起きても、「法と秩序」政策について大きな変化がない国もあれば、大きく変化する国もある。
条件2:与党は必ずしも自らのイデオロギーを率直に政策に反映させるとは限らない。よく言われるように、政治家は自らの政党の支持者が期待する政策と、再選可能性を高める政策(政党の支持者ではなく、広く一般有権者に支持されている政策)との間のトレードオフ関係から選択をしなければならない。政党レベルのマクロな視点では、こうしたトレードオフは、政党は固有のイデオロギーよりも、得票の最大化を目指して、政策を有権者の世論に近づけようとする。つまり、「法と秩序」についての政府の態度を決めるのは、政党のイデオロギーよりも、有権者の世論。ただし、多くの中道政党は有権者の大半と「法と秩序」に関する考えを共有しているので、中道政党は自らの公約を実行することに問題を感じない(ただし極端な政党は別)。
仮設1:政府(与党)が「法と秩序」について厳しい立場をとている場合、その国の「法と秩序」政策は厳しいものになる。
条件3:憲法裁判所(の判決)が政府の厳しい「法と秩序」政策を制限するような制度的緩和がある。憲法裁判所のような制限が最も弱いように見えるイギリスの場合でも、貴族院内務省の政策に対して反対することで、憲法裁判所的な役割を果たしている。また、財政上の制限が政府の自由な政策を制限する(緊縮財政が必要な状況下では、政府のイデオロギー的違いは影響力を持ちにくい)。
仮説2:政権ごとのイデオロギー的違いがもたらす影響は、憲法裁判所に代表される制度的制限と、予算上の制限によって、条件づけられる。

○データ、方法、変数、評価方法(p675−)
・独立変数:政党のイデオロギー位置。Manifesto Research Groupのデータ。
・従属変数:「法と秩序」に関する公的支出額。

○結果(p677−)
・他の変数(デモクラシーの類型や福祉国家の類型など)を加えて回帰分析すると、政権のイデオロギーと予算の関係は弱い。「法と秩序」について厳しい立場を取っている政権と、「法と秩序」に関する予算の多さは、たしかに相関していたが、弱い関係しか見られなかった。仮説1は、十全に支持されない。
選挙制度やコーポラティズムは影響を与えない。
・財政的制限は大きく影響する。財政赤字額の高さは、「法と秩序」についての支出を減らす。またはその逆。
・殺人の多さと犯罪不安は、「法と秩序」についての支出を増やす。
・脱工業化や経済の開放性、所得格差、失業率は、影響を与えない。犯罪学が想定したのとは逆に、失業者が多ければ、政府支出は「法と秩序」以外の社会保障や雇用創出へ向けられるため、「法と秩序」に関する支出はむしろ減る。
・影響が大きい順に並べると、殺人件数・犯罪不安→財政状況→制度的制限・裁判所→政党のイデオロギー。殺人件数や犯罪不安は、それを受けて政府が政策を変える重要な要因。
・ただし、最も影響の小さい政党のイデオロギーも、方向性としては仮説1を支持している。問題は程度が小さいこと。(Fig.3)
・仮説2(政党のイデオロギーの違いは、財政状況と制度的条件によって制限される)は、Fig.4において支持されている。例えば、強力な司法審査制度がある場合、「法と秩序」に対する支出は、政権のイデオロギーが強くても、抑制されている。予算についても同様。

○結論(p682−)
犯罪学研究の多くが依拠するような、構造的要因(グローバリゼーション、ネオリベラリズム、脱工業化など)は、「法と秩序」に関する政策を説明する一つの要因ではあるが、各国政府の政策を決定づけるものではない。「法と秩序」についての評価は、各国の政策形成過程を考慮して行われる必要がある。
政権のイデオロギーは「法と秩序」政策の方向性を決めるが、それは予算や制度の制約に大きく左右される。

 

Comment
・Newburn, T. 2007. ‘Tough on Crime’: Penal Policy in England and Wales. Crime and Justice 36: 425-470は、例外的に党イデオロギーを考慮した研究。
・犯罪学が、大きな流れしか論じず、各論や国別の詳細を研究していないかのような前提は、おそらく正しくない。犯罪学の研究は膨大にあるはずで、個別事例や比較を用いた研究はたくさんあるはずである。著者が読んでいないだけではないか。
・p669の註26で断りがあるように、本論は予算面についてのみ分析対象にしているが、政府が行えることには、予算をかけずに行える、規制の変更やシンボリックな行為があるはずであり、予算だけで判断することはできない。
・大きな理論を批判するには、調査範囲となっている時代が短い(1995—2008)。ガーランドたちが問うているのは、まさにこの論文が調査していない、長期間の変化ではないか。95年には西欧諸国の多くで、既にグローバリゼーション、ネオリベラリズム、脱工業化がある程度進んでおり、そこから2008年までを分析しても、big trendsはもう出来上がってしまっているのではないか。
財政赤字の多い国ほど、「法と秩序」政策において寛容であるというのは、南欧諸国を考えると、本論の想定する理由だけに求められるのだろうか。気楽さ、国民性・・・